与信管理の仕組みとERPに求められる機能

与信管理中

取引先の予期せぬ倒産で連鎖的に倒産した。今期の業績が途端に悪化した。劇的に環境が変化する現代、このような事態を防止するためにも与信管理の重要性が高まってきました。今回は、与信管理の仕組みとERPに求められる機能について解説していきます。

与信管理の概要

 

与信管理とは、金銭の貸与や掛けによる取引を行う相手の支払能力に応じて、取引額や回収条件を管理すること

金融業界においては、支払(返済)能力が重要であることはイメージしやすいと思いますが、その他の業界でも支払能力は重要です。

日本においては、取引の都度請求書や領収証を発行する非効率性や銀行口座からの入出金に伴う手数料の低減を目的に、「掛け」による取引習慣を持つ企業が多く、事実上多額の債権回収の留保(貸付)を行っている訳ですから、金融業を除く業界においても与信管理が重要なテーマとなります。

掛けによる取引を行っていた取引先から倒産等により債権を回収できなくなった場合のインパクトは大きく、場合によってはそのまま共倒れしてしまうこともあります。また、この損失を補うためには、条件にもよるのですが、一般的に損失額に対して、何倍もの売上が必要となります。

例えば、100万円の売掛金があった取引先が倒産し、債権や納品した商品が全く回収できなかった場合の財務への影響は下記の通りとなります。

◯取引先が倒産しなかった場合のPL

売上: 1,000,000
原価: ▲700,000
———————————
粗利: 300,000

◯取引先が倒産した場合のPL

売上: 1,000,000
損失:▲1,000,000
原価: ▲700,000
———————————
粗利: ▲700,000

この例で言うと、倒産の影響は同等の取引を3つ成立させないと補えないことが分かります。また、倒産した取引先の入金を支払の当てにしていた場合、慌てて金策を練る必要があります。今回の例では、債権回収の費用などは考慮していないので、精神的なダメージも含めるとより多くの影響があることが分かると思います。
※本旨から逸れるので、貸倒引当金の考慮については割愛します。

与信管理の流れ

与信会議

与信管理は、上場企業など大企業になると内部統制の一部として、事実上経営者の義務とされますが、法的に履行する義務がある訳ではないので、与信管理の方法について定められたルールはありませんが、一般的に下記の流れで行われます。

  • STEP.1
    新規取引先の与信情報収集
    新規取引先と取引が開始するタイミングで、与信管理部門にて与信情報を収集します。収集する情報としては、業界の現状や経営者の経歴など定性的なものや財務情報など定量的な情報などがあります。また、取引先が子会社だったりとりわけ依存している会社が存在する場合は、その親会社や依存している会社の情報も収集することもあります。
  • STEP.2
    与信限度額と回収条件の検討
    収集した情報を元に、いくらまでの掛け取引を許容するかを回収条件を考慮しながら決定します。この決定に際しては、様々な手法や企業固有のルールなどもあったりしますが、別の機会に解説していこうと思います。 
  • STEP.3
    与信限度額の管理と調整
    与信限度と回収条件が決定した後、実際の取引が開始されます。その後は、定期的に与信限度と売掛金の額をチェックし、与信限度を超過しないように管理していきます。また、一過性の取引増加や環境の変化による与信限度の見直しが求められる場合は、適宜、与信管理部門に対して、限度額の調整を申請を行います。

ERPに求められる与信機能

与信に関する機能は、企業によって範囲や運用ルールが異なりますが、基本的には下記の機能を取り揃えておけば、汎用的に対応することができると思います。

  • 自由度の高い与信管理グループ設定機能
  • 与信管理は、グループ企業一括で管理したり、複数の拠点を統合した形で管理したり、逆に同一グループでも取引通貨単位で外貨額での管理をしたりと自由度の高い与信グループの設定が求められます。

  • 与信管理対象外の設定機能
  • 取引先が国の組織や銀行など余程の事がない限り支払が滞ることがないと判断できる取引先の場合、わざわざ与信限度額などを管理する必要がないので、与信管理対象外という売掛金を発生させることはできるが、与信管理は不要とすることができる必要があります。

  • 一時与信限度額の設定機能
  • 与信限度額を超過するような大きな商談がまとまりそうな時など与信管理部門や経営層に稟議をあげた上で、与信限度額を一時的に増額してもらうことがあります。この増額に対して、与信限度額をそのまま上げるという運用でも構わないのですが、増額期間と額を設定できるような仕組みにしておくと期間が超過すると自動で与信限度額が元に戻るので、利便性が高くなります。

  • 与信残高の管理機能
  • 与信残高は、限度額を基準に売上時に限度額を減額し、入金時に限度額を増額させる必要があります。企業によっては、売上時とは別に受注時の限度額を管理したり、前受金の入金時に限度額を増額させたりする機能も持ちます。また、注意が必要なのが、手形の限度額の管理についてですが、手形は割引やファクタリングなどにより事前に現金化が可能ですが、割引が償還請求される可能性があり、一般的にファクタリングは償還請求される可能性がないので、割引の場合は、貨幣の入金のタイミングと限度額の増額タイミングが異なる(通常通り満期日に増額)のに対して、ファクタリングは入金と限度額の増額のタイミングが一緒になります。
    (償還請求権があるファクタリングもありますが、私がこれまで参画したプロジェクトの顧客でこの形式でファクタリングをしている会社はありませんでした。)

  • 与信残高照会・通達機能
  • 与信グループ毎に現状の与信限度の残高を照会する機能や一定率を超過した与信グループ先を管理する部門のプリンタに超過懸念先リストを出力する機能が必要です。注文を受けた後に与信限度額を超過してたので、やっぱり注文を受けれませんでしたなんてことは余程売り側に主導権がないと主張することができないので、基本的には定常的に与信残高を管理して、超過する前に、事前に入金を促したり、与信限度額の引き上げを申請したり、営業活動を抑制してみたりする必要があります。そのため、現状の与信残高を照会・通達する機能が必要です。

  • 与信限度超過チェック機能
  • 受注時の与信残高を管理している企業は、受注伝票入力時に与信限度額超過のアラートやエラーチェックを実施したり、売上時の与信残高を管理している企業は出荷前にアラートやエラーチェックを実施したりします。ただ、前述の通り、基本的には入力時に当該チェックに引っかかるということはなく、最終防衛ラインとして機能することになります。また、前述の一定率を超過した場合の通達を入力時にアラートチェックとして組入れる企業もありますが、一度一定率を超過すると、しばらくの間、入力の度にアラートが出力されることになるので、現場の担当者にとっては不便な仕組みとなることが多いです。

あとがき

企業によっては、伝票を事後計上せざるを得ない運用を持つ場合があります。その対策として、経営層が与信を管理するために事前に伝票計上を強制する仕様を要求している一方、業務負荷に現場が耐えきれないなんてことで苦しんでいたりします。経営層も何度か苦い経験を経た結果、躍起になっているのだと思うので、やはり与信管理というものは、経営層の思惑と現場の思惑が衝突する側面があり、難しいなとつくづく感じます。このような場合は、定期的に売掛金の額を集計し、与信限度額を超えるような取引が発生していた場合は、担当者と協議するなど結果から管理する方式の検討が必要なのかもしれません。

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